10 特別編 現代アーティスト 中島健太

アートをテーマにした作品である「アルテ」。
16世紀のフィレンツェ当時のアートを取り巻く環境が物語の中で多く語られているが、その多くは現在のアートシーンと大きく異なる。
今回、大学3年でプロデビューして以来、制作した500点以上の作品はすべて完売し、『完売画家』としてメディアでも取り上げられ現在も第一線でご活躍中の日本人画家 中島健太氏に「アルテ」の物語が持つ魅力と、現在進行系のアートシーンで何が起きているのか語っていただいた。
――「アルテ」をご覧になった率直な感想を教えてください。
芸術家はいつの時代も、自分の腕だけで、貴族であったり、実業家であったり、いわゆる世の中の成功者と肩を並べる事ができる数少ない存在だと思うんです。主人公のアルテは貴族出身ですが、師匠のレオは物乞いからスタートしています。レオのように何の道筋もなく、教育を受けて来なかった人さえも、腕だけで成り上がっていけるのはいつの時代も一緒ですし、そこに面白さを感じましたね。
――芸術家ならではの目線ですね。
例えば今の時代で言えば、奈良美智さん、村上隆さん、草間彌生さんなど、世界のトップで活躍している日本人も、世界中のスターと交流し、そうしたセレブリティが彼らの作品を買うわけです。芸術家は自分のクリエイティビティひとつで、世界中のセレブリティを惹きつける資格を持っている。これは本当に面白いことだと思います。
お金のある家で、塾などに行き、勉強をして良い学校へ行き、良い会社へ行くというわかりやすいキャリアステップがありますが、芸術家はそうしたステップが必要ありません。誰にでもチャンスが平等にあって、そうしたチャンスを掴めば実力者との交流も出来る。そしてスポーツ選手のように、年齢による活躍のピークもありません。アルテは10代ですから、歳を重ねるたびによい作品を作るチャンスに巡り合うと思います。
アルテがいくつもの試練を乗り越え成長していく姿は、見ていて爽快ですよね。
――レオのアルテに対する質問でもありますが、中島さんの画家を目指された理由を教えていただけますか。
端的に言えば、自分を活かす手段としてプロの道を選びました。
美大に入った頃に父が亡くなり、大学を卒業する前に自分の進路を決めなければいけなくなりました。その時に腹をくくって画家になろうと決めましたが、ある意味で消去法というか、自分にはその選択肢しかなかったとも言えるかもしれません。
美大に入った当初は、美術の先生になろうかな、なんて思っていたのですが、父の死で環境が大きく変わり、自分の中でいち早く「手に職をつける」「プロの画家になる」という思いが生まれたことが画家になったきっかけです。
――作中でアルテが工房を巡り、全く相手にされないという場面が描かれています。今の時代も、美大生がポートフォリオ(注:自身の手掛けた作品群をまとめたもの)を先輩のアーティストに見てもらったり、ギャラリーの人に見てもらったりする事があります。中島さんも、そうして誰かに作品を見せて回る武者修行時代のようなエピソードはありますか?
実はあまり下積みらしい下積みを経験したことがないんです。
大学卒業前という早いタイミングからプロの画家を目指していたこともあり、同年代に競合があまりいませんでした。他の人と同じように公募展やコンクールに作品を出してもいたのですが、大学2年生の冬休みにギャラリストの方に声をかけてもらった縁で大学3年生の春にはプロデビューしていました。
今の時代と比較すると、アルテの時代は下積みをする場所が整っているじゃないですか。実は、あれは率直に羨ましい部分でもあったりします。僕は誰かに具体的な指導を受けたということが無いのですが、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチといった巨匠の工房に入れば、徒弟として育成の機会を得ることが出来た。
ダ・ヴィンチやミケランジェロは絵画だけでなく、彫刻も出来るし、建築だって手掛ける。そういった一朝一夕では身につけることが出来ない多くの技術を、若手が学ぶ仕組みがあったという点は、非常に重要です。
ひるがえって現代の日本でのアートを取り巻く環境は大きく違います。“好きなことをやっている人間は食えなくなっても仕方ない”といった空気がありますよね。しかし、才能というのは、いわば種なので、土と水が無ければ育ちません。アルテの時代で言えば工房とパトロンのふたつですが、現在の日本ではともに足りていないと感じます。
――作中には、アルテやレオ、アンジェロといった絵に携わるキャラクターが複数登場します。中島さんが好きなキャラクター、もしくはご自身に親近感を感じるキャラクターはいらっしゃいますか。
やっぱり、レオさんはかっこいいですよね。画家としてその道を追求する姿や、ストイックな姿勢はみんな持ちたいと思っているはずだし、可愛い弟子がいきなり転がり込んでくる点もとても羨ましいです(笑)。
――中島さんも若手が来たら育てたいという思いがありますか?
僕も既に何人かの弟子を持った経験があります。現在はメディアに出る機会が増えたので、新規で募集はしていませんが、今でもデビューに向けて頑張っている弟子が2人います。
当たり前ですが、弟子を育てるのはとても大変なことです。ただ、それでも育成に関わりたいと思うのは、日本には美大があっても芸術家を育てる環境として機能していないという背景があるからです。僕が大学3年生でデビュー出来たのは色々な運やめぐり合わせのおかげなので、後進に同じようなチャンスを与えられたらと思っています。
キャラクターの話しに戻りますが、アンジェロも好きですね。天才じゃないけど秀才で、女性にも優しいんだけど偏見もある、みたいな。自分は女性に対して優しい、と思う男性にありがちなのは、男性バイアスがかかった状況で女性を見てしまうこと。そうしたアンジェロの態度は、自分に置き換えて考えてしまう部分がありましたね。
――先ほどもパトロンの話がありました。ウベルティーノはレオのパトロンですが、ペギー・グッゲンハイム(注:グッゲンハイム美術館の創立者であるソロモン・R・グッゲンハイムの姪。パブロ・ピカソなどの作品を含め20世紀を代表するコレクター)など、これまでもアートシーンには多大なるパトロンが存在しました。アーティストとパトロンの関係について、中島さんはどう思われますか?
パトロンって聞くとネガティブな印象が正直あるんじゃないかなと思います。ただ実のところ、パトロンにはスターを育てる重要な役割があります。誰だって最初からスターなわけはなく、環境から影響を受けてスターになっていくんです。もちろん、いつの時代も一握りの天才は存在していて、いきなりとんでもない作品を作ってしまったりしますが、それは例外的な話です。
例えば映画業界を考えると、年間に大ヒットするのって数本じゃないですか。しかし毎週、何かしらの新しい作品が上映されていますよね。それはつまり業界としてヒット作が生み出されるための経済的なボリュームが担保されているということです。人が映画館に行くという習慣があるからこそ、世の中にたくさんの作品が生まれる。これが年間数えるほどしか上映されない状況では、業界そのものが干上がってしまいます。
アートシーンにおいても同じことが言えると思います。誰かが買ってくれるから、その業界が育っていくという側面があるので、作り手サイドも、販売サイドも、美術の敷居を下げるというのをやらないといけないのかもしれません。どこか小難しいとか、高尚とか感じてしまう、いわば“普段着”ではない現在の状況は変えていく必要があると思います。
そういう意味では、アルテの時代って画家を支援することが貴族の人たちにとっては日常の延長線上にありました。今の日本も優秀なクリエイターが多いですし、豊かな中間層がいます。だからこそもっと美術作品を気軽に手に入れて、無意識にパトロンになっていようになったら良いなと思います。
――日本以外の国では、アートシーンも変わってくるものでしょうか?
僕は海外に出ていないので、そこまで海外の状況に詳しいわけじゃないのですが、日本よりもセカンダリーマーケット(注・「第2次市場」でオークションやブローカーなどから購入するマーケット)が機能しています。オークション市場が活況になることで、作品自体が投機対象として値段が上がり、作品の値段が上がることでさらに人が集まるという循環が発生しています。
例えば、ビットコインは通貨として使用されることはほとんどないですが、投機対象として世界的に実際のお金がかなり動いていますよね。海外のアートシーンも、同様の事が起きるボリュームのマーケットがあるわけですが、日本においてはそうした部分が現状不足していると思います。値段が上がることが良いことだと言いたいわけではないですが、値段が上がれば自然と業界自体への認知も広がりますし、新規で興味を持つ層も増えていくと思います。
そういう点では、こうした美術をテーマにしたアルテのような作品は、芸術家を目指す人が増える良いきっかけになるのではないか、と期待しています。
――セカンダリーマーケットの話が出ましたが、中島さんの作品はセカンダリーマーケットでも取引されていたりしていますか?
はい、ありますよ。実は国内ではヤフーオークションなどもセカンダリーマーケットとしてかなり機能していたりします。シンワ(注・日本最大級の美術品オークション会社)にしろ、毎日オークションにしろ、僕はもう15年以上やっているので、必ず年に数点、オークションに出ているものを見かけます。
作家によってはセカンダリーマーケットに出るのを嫌う方もいますが、セカンダリーマーケットに出ることによって、新しい顧客を開拓する要素もありますし、自分と取引のない業者や画商が買って、僕と直接取引している画商のお客さんではない方へ作品が届くという、作品の流動性が高まる意味もあります。
さらにセカンダリーマーケットで値段が付くことは作家としても重要です。生々しい話になりますが、僕の作品を100万円以上の値段で買っていただくことがあるのですが、ほかの僕の作品がオークションでしっかりと値段がついていると買いやすいじゃないですか(笑)。仮に100万円で買っても手放したときに70万円で買い手がつくなら、実質30万円で買ったようなものです。逆に、セカンダリーマーケットで人気になれば、150万円にもなったりして、100万円で購入したことで得をした、ということもありえます。ですから、セカンダリーマーケットが日本でももっと活況になってくれたらと思います。
――アニメ作品で描かれているように、かつては肖像画を描くことは画家の仕事でしたが、写真の登場により肖像画の立場が変化しました。中島さんは肖像画を描くことが多いですが、肖像画を描かれるうえでどのような思いを込めているのでしょうか。
カメラの登場によって、絵画の必要性についての議論が生まれました。間違いなく言えることは、1800年代にカメラが登場してから今に至るまで、肖像画が無くなったということは一度もなく、その事実が絵画の必要性を証明しているのだと思います。
絵画と写真を比べると、写真のほうが手軽ですし、持ち運びも簡単です。データにしておけば復元も出来ます。
その一方で絵画は描ける人にしか描けませんし、複製もなかなか出来ません。壊れてしまったらそれで終わりという不便さがありますが、だからこそ一点物の価値があります。手紙に例えると、同じ文章内容でも、電子メールと手書きで書かれた手紙の違いではないかなと思っています。利便性は当然電子メールのほうが上ですが、やっぱり自分の手で時間をかけて書いた手紙の方が思いを伝えられると思うんです。肖像画も同じだと思います。ですから、絵画というのは、思いを込めるという意味で、まだまだエネルギーがあるのと信じています。
――アルテの作中では、職人として仕事を受けるシーンが登場しています。現在では、ギャラリーに所属し自分の好きな作品をつくるアーティストもいれば、企業などのクライアントから受けた仕事をするクリエイターもいるなど、アーティストとしての立場も様々です。現在のアーティストの仕事について、中島さんが今思う事を教えてください。
自身の好みの作品をつくることと依頼をうけて作品をつくること、どちらに優位性があるとは考えていません。どちらも素晴らしい仕事です。
そのうえで第3話「初仕事」でレオがアルテに問いかけるセリフが特に印象的でした。「アルテ、この絵で一番大事なのはなんだ? 客はどんな絵を求めている?」というレオの言葉は、プロの造り手としてハッとさせられましたね。
今の美術教育というのは、自分の表現したいものは何なのか、というところからスタートします。しかし、顧客の目線を意識することの重要性についてももっとスポットがあたってよいのではないかと思うんです。
自分の表現したい作品をつくるアーティスト、クライアントに向けた作品をつくるアーティスト、どちらもそれぞれ仕事をするうえで、見る人の事を考えていない人間というのは、やがて淘汰されてしまうはずです。天才は時として、自身の才能のみで大きく羽ばたきますが、画家全員が時代に愛されるわけではありません。育成の立場から考えるとどうやったら人に求められる作品になるのか、という視点を持つことはとても重要なので、「作りたいものを作りました」以外の方法で作品を作る術を身に着けてもらえたらと思っています。
――最後に現在アルテを見ている方たち、特にアーティストを目指す方たちに、メッセージをお願いします。
「アルテを見ろ!」の一言です。
主人公のアルテは思いが先行するタイプですが、そうした思いと現実をうまくチューニングしながら、自分の高い志を維持しつつも、自身の変化も厭わない。ひとりのアーティストとして見習うべき点がたくさんあります。本当に良い教科書だと思いますので、今からでもぜひアルテをご覧ください!
<中島健太氏 プロフィール>
なかじま・けんた 1984年、東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒。大学3年でプロデビューして以来、現在までの制作作品は500点を超え、その全てが完売。「瀬戸内寂聴」「ベッキー」などの作品も話題となり、メディアに多数出演。TBS朝の情報番組「グッとラック!」では木曜日のコメンテーターを務める。主な受賞歴は2009年、第41回日展「特選」。14年、改組新第1回日展「特選」など。最近はYouTubeチャンネルを開設し、アートをもっと身近にするべく活動中。
 
公式ツイッター:@oilpainternk
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