08 美術監督 SCOTT MACDONALD

――『アルテ』の原作を読んだときの第一印象はいかがでしたか?
もともとヨーロッパを舞台にしたアニメが好きなので、最初はイタリアが舞台になっているところに惹かれました。主人公のアルテもよかったですね。たとえ倒れたとしても、夢のために必ず立ち上がって前を向く性格で、その決意の強さに心を動かされました。
――同じクリエイターとしてアルテに共感する部分はありましたか?
似ていると感じる部分はたくさんあります。日本人ではない自分が日本に来て、日本の会社に就職するのは大変でした。アルテも男社会に飛び込んでいくのはきっと怖かったと思うんです。もちろん、会社に入ってからも下積みというか、たくさん経験を重ねていかないといけないので、もう大変なことばかり(笑)。でも、絶対にこの仕事を続けるんだという強い思いがあったので、すごく共感できました。
――美術監督として、大久保圭先生の描く背景についてはどんな印象をお持ちになりましたか?
白黒なのにそれでも場所がはっきりわかるぐらい描写が細かいので、きっとリサーチが大変だったのではないかなと。あとは、この人はお金持ちであるとか、この人は職人であるとか、背景の建物などを見るだけでその人物が社会のどの階層に属しているかがわかるところもすごいなと思いました。
――アニメの美術ボードを制作される上で、どういう部分を大切にしたいと考えましたか?
アニメだから当然“画”(え)ではあるのですが、『アルテ』は絵画の話ですし、世界観もどこか絵画のような雰囲気にしたいと考えていました。あとは生活感のようなリアリティですね。例えばレオの工房であれば、体が大きいからテーブルにぶつかったりするだろうし、テーブルの角をちょっと削るとか。階段も少し歪ませてみたり、画材も使い古してあったり、そういった長年にわたる使用感を意識しました。最初の頃は生活感がなくて「ちょっと綺麗すぎる」と、浜名(孝行)監督からたくさんリテイクをもらいましたけど(笑)。
――ただ背景としてあるだけではなく、物が自然とその場所に存在して使われてきたという雰囲気を大切にされてきたんですね。
そうですね。描き方も物をただ置くように描くのではなく、その場所に存在させるようなタッチを意識しました。例えば影になっている部分などはうっすら紫を混ぜて、空間になじませるようにしています。今までしたことのない描き方に挑戦したので、掴むまでに時間はかかりましたが、すごく楽しかったです。

――リアリティをどこまで追求するか、そのバランスを探るのは難しかったのではないですか?
難しかったですね。実際、当時のイタリアの工房などはそんなに綺麗な場所ではなかったんです。でも完全に再現してしまうと、画(え)が地味になってしまいます。監督も、この作品は女性が前向きに進んでいく話なので、汚くて暗すぎる感じにはしたくないとおっしゃっていました。だから、室内も気持ち明るく描くようにしています。当時は電気なんてなく、光源もロウソクや窓だけですが、リアルを追求すると本当に暗くなってしまうので、作品の明るさを大事にして室内も明るく見せるようにしました。
――アルテの実家などは明るい印象がありますが、それも実際より明るく描いているのでしょうか。
アルテの実家の部屋も窓が一つか二つあるくらいなので、実際はもっと暗いはずです。でも、“貴族のお嬢さまの部屋”というイメージを大事にして、明るめで暖色を多めに使うようにしています。
――美術ボードを作る際、何から描くことが多いのでしょうか?
作品によりますが、ボード打ち(美術ボードに関する打ち合わせ)で監督が順番を決めてくださって、何点かまとめて提出するというのが多いです。今回の『アルテ』の場合だと、アルテの実家の部屋、レオの工房、工房の外の通り、ヴェロニカの屋敷だったと思います。
――最初におっしゃっていた、人物が社会のどの階層に属しているのかがわかるラインナップですね。
そうですね。ヴェロニカの屋敷は大理石で作られたお金持ちの家。それに対して、レオの工房はレンガ作りという、大きな違いがあります。
――美術設定の吉原(一輔)さんとはどのような話し合いがありましたか?
美術設定ができたあとにボード打ちという順番なのですが、そのときにこの部屋のこの壁はどうなっているのか、何で作られているのかなど、細かい設定を教えていただきました。とにかく知識が豊富の方なので、お話しするのが楽しいですね。ルネサンス期にはどんな建物があったかとか、窓一面のガラスはなかったとか、いろんな話を聞かせてくださるんです。一緒にイタリアにロケハンに行ったときも、あちこち写真を撮って歩いて、ビールを飲みながらたくさんお話ししました(笑)。
――当時の街並みや建物を調べられましたか?
会社に資料としてあったフィレンツェとヴェネツィアの本にルネサンス時代からのイラストが載っていたので参考にしました。ただ、市場の美術ボードに関しては、街並みの雰囲気に合わせて自分が作りました。当時の市場の絵と比べてもかなり近い雰囲気を出せたと思います。

――ロケハンはいかがでしたか?
建物の窓や扉の大きさが気になっていたので、ルネサンス時代から残っている建物がとても参考になりました。自分はよく異世界転生もののアニメを見るのですが、建物は中世ヨーロッパ風ではあるけれど扉や窓の大きさは現代日本のものがベースになっていることが多いんです。でも、実際に当時の建物を見ると、高さも幅も三人分ぐらいあって現代の日本と全然違うんです。それは面白い発見でした。
――ほかにロケハンで気づいたことで、『アルテ』本編に反映したことは何かありますか?
ガイドさんから教えてもらったのですが、レンガ造りの建物は下のほうと上のほうでレンガの大きさが違っていて、下は大きなレンガで上にいくと小さくなっていくんです。それは下から見たときに遠近法で自分の家を高く見せるためだそうで、『アルテ』でも取り入れました。
――充実のロケハンだったんですね。
最高でした。正直に言うと、飛行機が苦手なんです。『アルテ』の美術監督の話は嬉しかったんですが、ロケハンの話は本気で悩んでしまって。でも、「これは仕事だよ」って先輩に背中を押され(笑)、それで行くことになったんです。でも、本当に行ってよかったです。どの場所も美しいし、食べ物もおいしい。特に最終日のヴェネツィア、水上バスから見た朝日が忘れられないです。本当に綺麗でした。必ずまた行きたいですね。

――最後に、放送を楽しみにしている方へ一言お願いします。
美術監督として背景を見ていただきたいのはもちろんありますが、やっぱり一番見てほしいのはアルテの成長です。どんどん好きになっていただけると思います。