04 キャラクターデザイン/総作画監督
 宮川智恵子

――原作を読まれたときの感想はいかがでしたか?
この作品で好きなのは、キャラクターが舞台装置になっていないところです。物語を動かすためにキャラクターが存在するのではなく、キャラクターの生きている世界が物語になっているのが、すごくいいなと思いました。
――キャラクターが活き活きと描かれていますよね。
そうなんです。例えば、仲直りをする前提でわざとらしい喧嘩をしたり、ある台詞を言わせるためにキャラクターを登場させたりするのではなく、「この人がいたからこうなった」と、キャラクターの存在がしっかりドラマと繋がっているので、どっぷりと物語にひたれました。
――キャラクターデザインから見た大久保圭先生の画風はいかがでしたか?
まず髪の毛の描き方に目を奪われました。アルテがアップになったときの描き込みをそのまま小さいコマに持っていくのではなく、小さいコマはちゃんと小さいコマ用の描き込みになっていて、それがとても美しいんです。ただ省略するだけではない描き込みに惹かれました。
――アルテのキャラクターデザインで大事にされたポイントを教えてください。
やっぱり髪の毛ですね。かなり悩みました。原作は髪の毛が根元までしっかり描き込まれていて、それがアニメだと表現しづらいんです。最初はだいぶ簡略化したのですが、色を付けた段階で浜名(孝行)監督から「髪の毛はもう少し原作に寄せたデザインにしたい」とオーダーをいただいて、現在のデザインになりました。
――以前、このインタビュー企画で浜名監督が「アルテの髪の毛のボリュームやハネについて、大久保先生に解説してもらった」とおっしゃっていました。
アルテは髪の流れに沿っていない毛が結構あるんです。アニメーションで描くのは限界があるとはいえ、ただすとんとした髪の毛にすると味気ないので、ポイントポイントで原作に寄せるようにしています。例えば、前髪だったらわかりやすいところに1本だけ髪の流れと逆方向の束を入れたり、両サイドにはハネを入れたりと、毛先の流れを意識することで原作らしさを取り入れるようにしました。
――アルテの表情で特に大切にされたことはなんでしょうか?
最初の頃の打ち合わせで監督がおっしゃっていたのは、原作よりも表情を豊かにしたいということでした。音を消して画面を見たときでもアルテが今何を考えているのか、どんなことをしゃべっているのかがなんとなくわかるような表情にしたい、と。アルテの感情に寄り添っていく作品だからでしょうね。実際に使わない表情もありましたが、キャラ表にはいろんな表情を載せるようにしました。
――原作だとアルテの服装のバリエーションがたくさんあります。アニメではどのように再現されるのでしょうか。
原作の衣装すべてを着せるのは難しいので、原作から数パターン選んでアニメにしやすいようにアレンジしました。難しかったのは、アルテの服装に多く見られる斜めのラインですね。アニメでは動かすのが難しくリテイクの元になるので、作画の負担を減らすためにも監督と相談してなるべく外すようにしました。ただ、省略ばかりだと今度はアルテらしさや時代感が出なくなるんです。原作の省略の仕方を参考にしながら、なるべく元のテイストを残しつつ、アニメーターさんが描きやすいように仕上げていきました。
――アルテは胸元を強調した服装も多いです。
胸の大きさは先生も大切にされているポイントだと伺って、アニメでも再現するようにしています。大事にしたのは、谷間が一本線で描かれているところですね。原作第2巻の巻末でヴェロニカの胸を描くのがお好きだと書かれていましたが、そのときのヴェロニカの谷間が一本線だったので、アニメでもちゃんと受け継ごうと思いました(笑)。普通、アニメだと谷間の線はY字になることが多く、アニメーターさんもY字にすることが多いので、そこは細かくチェックしてI字にしていただいています。
――アルテという主人公についてはどんな印象をお持ちになりましたか?
迷っても悩んでも、ちゃんと自分に向き合って解決方法を探っていくところが素敵だなと思いました。ご都合主義的に物事が進むのではなく、問題と過程と解決方法がしっかり描かれ、アルテが胸を張れる場所に着地する。とても身近に存在を感じられる描かれ方なので、「なんでそんなことで迷うの?」という部分がなくて、共感できるポイントがたくさんありました。
――同じクリエイターとして共感できた部分はどんなところですか?
レオに何度もダメ出しされるところですね。アニメーターだったら絶対にわかると思いますし、自分のことを振り返って泣きそうになるところだと思います(笑)。原画マンになりたての頃って、1カットを10回、20回、50回と描き直すのですが、描いていくうちにどんどんわからなくなって、100回目くらいでやっと自分が納得できる画に到達するんです。でも、ふと1枚目、2枚目と重ねてみるとだいたい一緒だった……なんてことがよくあって。迷いに迷って、「最初のインスピレーションが大事」、「深く考えすぎないところに答えがある」と気付くのは、アニメーターあるあるなんじゃないでしょうか。
――レオのキャラクターデザインについても聞かせてください。
最初は原作第4、5巻ぐらいのイメージでキャラクターデザインを描いたのですが、そこから二転三転しました。先生に確認していただいたところ、「髪の毛をもう少しくるっとさせてほしい」という要望があり、参考として出されたシーンが第1巻のコマだったんです。もしかしたら顔も第1巻に寄せたほうがいいのかなと思って、第1巻をベースに描き直したらスムーズにOKをいただけて。そのときにレオのデザインが固まりました。ちなみにアルテも第1巻の絵柄を参考にしています。
――アルテとレオ以外で難しかったキャラクターは誰ですか?
ユーリは大変でした。やっぱり先生のタッチも少しずつ変化されているので、原作第4巻で本格登場するユーリと、第1巻を参考にしたレオを並べたときに浜名監督から「レオに合わせてほしい」という意見をいただいたんです。それでレオの体格、骨格をベースにして、ユーリの描き直しをしたのですが、それが大変でした。なんとか浜名監督のOKが出たので良かったです。
――逆に描きやすかったキャラクターは?
ダーチャですね。アルテと違い、つむじや髪の毛の根元が見えませんし、頬を髪の毛で隠しているので輪郭も崩れにくいという描きやすいキャラクターでした。
――最後に、放送を楽しみにしている方へ一言お願いします。
アルテは画家という職業ですが、彼女の迷い方、周囲の人の悩み方というのは、その職業、時代にかかわらず誰にでも当てはまることなので、きっと身近に感じていただけると思います。共感するしないは置いておいて、あまり遠くの物語ではないと感じていただけたら嬉しいです。