03 設定考証 鈴木貴昭

――『アルテ』にはどういった経緯で参加されたのでしょうか?
シリーズ構成の吉田玲子さんに声を掛けていただきました。吉田さんとは『アルテ』の前に『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という作品でご一緒していたんです(吉田さんはシリーズ構成、鈴木さんは世界観設定と各話脚本で参加)。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はルネサンス期よりも近代ヨーロッパをイメージした世界観ですが、近い西欧世界を描くということで誘っていただけたのかと思います。
――鈴木さんといえば、『ガールズ&パンツァー』の考証・スーパーバイザー、『ハイスクール・フリート』の原案など、ミリタリー作品や軍事考証で活躍されているイメージがあります。
軍事考証という肩書きでアニメ作品に参加することが多いのですが、軍事考証といっても私が扱っているのは歴史、その中でも戦争史がメインなんです。それこそギリシャ・ローマ時代から第二次世界大戦まで扱うので、『アルテ』のルネサンス期も当然含まれます。ルネサンス期は西洋と東洋のぶつかり合いがあった時代。戦争史として見るべきものが多い時代なので、必然的に当時の文化、風俗なども知ることになります。また、今回は大学時代に学んでいたことも役立ちました。当時は学芸員の資格を取りたくて博物館学も勉強していたんです。まさかその頃の錆びついた知識が今になって役に立つとは思いませんでした(笑)。
――ちなみに、大学時代の専攻はなんだったのでしょうか?
西洋哲学ですね。ルネサンス期は西洋哲学でも重要な転換期で、ルネサンスの精神を語る上で絶対に外せない時代です。たとえば、『アルテ』より少し前の時代、同じフィレンツェで活躍していたマキャヴェリ(『君主論』の著者)などは西洋哲学を学んでいて避けて通れない人物ですし、その前後の時代を勉強したのが今役立っています。
――『アルテ』の設定考証という仕事はどういったものなのでしょうか?
世界観を補強するために必要なもの、求められるものを提案、確認するという役割です。例えば、服装にはどんな色が使われていたのか、料理はどんな色だったのかと、文化や風俗に関することを調べて制作サイドにアイディアを出したり、問い合わせに回答したりするという作業がありました。
――どんな問い合わせが多かったですか?
色に関する問い合わせが一番多かったです。原作は基本的にモノクロのため、どうしても色がわかりづらいときがあるので、その時代には使われていない色や流行の色などを調べてお伝えしました。
――服装などは大変ですよね。
そうですね。当時の写真があるわけではないので、どうしても絵画を調べることになります。
――アルテの服装などについて、鈴木さんからデザインや色をご提案することもあったのでしょうか?
アルテは原作も当時使われていた色をベースに描かれているので、どちらかというと街の人々がどんな服を着ているのかについてご提案することが多かったです。例えば、黒一色の服は貴族じゃないと着ないとか、ヴェロニカのような高級娼婦は庶民が着られないような派手で綺麗な服を着ているとか。高級娼婦と道化師というのは普通の人とは違う格好をして、職業の見分けがつくようにしないといけなかったんです。だからといって、庶民の服装を時代に即したものにしすぎるとあまりに地味な格好になってしまうので、アニメ的な見栄えを優先していただくこともありました。
――色だと、ほかにはどのようなご提案をされましたか?
料理に関するものが多かったです。例えば、「当時、使われていたタマネギは赤タマネギです」とか、「フィレンツェ周辺で食べられていたニンジンは細くて黒かったんです」とか。料理に関してもアニメ的なわかりやすさを優先していただいた場合もあります。この作品に参加する少し前に14~15世紀のレシピ集をたまたま手に入れていたのも大きかったです。当時の調理器具やその使い方が絵入りで解説されているので、料理シーンで参考にさせてもらいました。
――さまざまな資料にあたるんですね。膨大な作業量になると思いますが……。
そうですね(笑)。もともとある知識を手がかりに参考文献に当たり、その文献からまた参考文献を探っていくという作業を繰り返していました。重要なのは、問い合わせがきたときに何か引っかかるか。最初に気付かなくて、あとから「すみません、直していただけますか」とお願いすることもありました。
――それはどういった内容だったのでしょうか?
アルテが使っている筆の軸やロウソクの色がそうでした。最初は、軸の色がその時代に使われていなかった色だったので、変更をお願いしたんです。ロウソクも当時は蜜蝋(ミツバチの分泌液で作られた黄色いロウソク)だったので、白いロウソクではありませんとお伝えしました。
――先ほどおっしゃっていた、アニメとしての見栄えと考証の正しさのバランスを取るのは難しくありませんでしたか?
そうなんです。例えば、原作にはおいしそうなパンが出てきますが、当時実際に食べられていたのはあんなにおいしそうなパンではなかったんです。でも、原作を尊重したいですし、何よりアニメでも見栄えがいいので変更せずに使わせていただきました。あとは馬車もそうですね。最初にいただいた設定は実際に使用されていたものと構造が違っていたのですが、整合性を優先してしまうと制作上の負担が大きくなるので、微調整をしていただいて基本はもとの設定のままというものもありました。
――設定考証の作業で、特に大変だったことはなんですか?
大変だったのはラテン語やいろんな言語のテキストを読まないといけなかったことですね。ミケランジェロが遺した契約書をはじめ、当時の画家の契約書は基本的にはラテン語で書かれているので、それらの文章を読むのは大変でした。
――では、作品の印象についても聞かせていただけますでしょうか。
女性の自立が難しかった時代を舞台に、女性画家を描こうとするその意欲に惹かれました。しかも、とても真っ直ぐに魅力的に描いているのが素晴らしいです。
――アルテのどのようなところに魅力を感じましたか?
絶対に諦めないところですね。今の時代、女の子が主人公の作品は主人公が決して諦めずに前へ進み続けるものが多いと感じていて、そういう作品が求められている気がするんです。自分が物語を書くときも、主人公は見た人、読んだ人が少しでも元気になれるようなキャラクターであってほしいといつも考えています。アルテはまさに今の時代に合った希望を与える主人公だと感じました。
――鈴木さんがご担当された作品は女性の主人公が多いと思います。共通点を感じる部分も多いですか?
そうですね。例えば、『ストライクウィッチーズ』(鈴木さんは軍事考証、世界観設定で参加)の宮藤芳佳も決して諦めない子で、自分にできることをなんとかやり遂げようとして、まわりを動かし、大きなうねりを作っていきます。そういうところは似ているかもしれませんね。
――最後に、放送を楽しみにしている方へ一言お願いします。
アルテの前向きで決して諦めない姿を見て、明日も頑張ろうという気持ちになっていただけたら嬉しいです。