02 シリーズ構成 吉田玲子

――吉田さんをシリーズ構成に推薦されたのは浜名孝行監督だったそうですね。
ええ、ほかの作品でご一緒していたときに、監督から「面白い原作ものをやっている」と『アルテ』の原作を勧めていただきました。読ませていただくと、おっしゃる通り主人公のアルテが活き活きと描かれていて、とても面白かったです。
――アルテのどんなところに魅力を感じましたか?
がむしゃらに突っ走るように見えて、この時代に女性が画家を目指すことがいかに波風を立てるか、きちんとわかっているところです。周囲に目配りができる、賢明なキャラクターだと思いました。
――脚本を書く際も、その部分を大切にされたのでしょうか?
そうですね。「出る杭は打たれる」ではありませんが、アルテは周囲から目の敵にされていることを自覚しながら修行に打ち込んでいるので、自分の主張を押し通すだけの人に見えないような描き方を心がけました。
――脚本家というクリエイターの立場から見て、アルテに共感したポイントはありますか?
アルテもレオも職業画家なので、自分の趣味ではなく依頼人の目にどう映るかを優先して、客観的な視点で描かないといけないんです。それは脚本家も一緒だなと思いました。ただ、二人の仕事の向き合い方はもの作りに携わる方だけではなく、仕事と向き合う誰もがきっと共感できると思います。環境こそ今とは全然違いますが、仕事で悩むアルテはどこか新米社会人のようにも見えました(笑)。
――現代の日本とは文化も価値観も違いますが、なかなか掴めなかった部分などはありましたか?
特に気になったのは、画家の立ち位置やどういう美術が最先端だったのかという時代背景や美術観です。ルネサンス中期から後期にかけての絵画のトレンドなどは設定考証の鈴木(貴昭)さんに伺いながら調べるようにしました。
――当時はどのようなトレンドがあったのでしょうか?
ルネサンス期は、(絵画の中でもっとも格が高いとされた)宗教画だけではなく人間そのものも描いていこうという流行があった時代で、この頃、肖像画が独立した芸術になったそうです。アルテも肖像画を描いていますが、工房の画家たちは肖像画家としていろんな貴族に招かれるようになりました。写真のある現代に生きていると、肖像画家という職業はなかなか想像しづらいですが、重要な職業として成立していたということですね。
――ちなみに、シナリオ会議では浜名監督とどのような話し合いがあったのでしょうか?
監督も画を描かれる方なので、アルテの絵に関する話し合いが多かったです。例えば、アルテは今どういう絵を描いているのか、レオからアドバイスをもらう前ともらった後で絵はどう変化するのか。それが明確にわかる形にしたいとおっしゃっていたので、特徴や変化のポイントを掴んでシナリオに落とし込みました。
――アルテの絵の特徴についてもう少し詳しく聞かせていただけますか。
アルテは女性なので、女性ならではの視点があるだろうと思ったんです。鈴木さんにも当時の絵画について意見を伺いつつ、女性が着る服やレースの繊細さを描くのがうまいのではないかなと想像しながら、その特徴を掘り下げていきました。
――原作サイドからリクエストされたことはありますか?
シナリオを確認していただき、アルテの台詞のニュアンスから描いている絵の特徴、小間物などの設定に至るまで、いろんなアドバイスをいただきました。特に参考になったのは、大久保(圭)先生がアルテという人間をどう描いているかですね。アルテは画家としての職業意識をきちんと持っていて、必要以上に女の子女の子しないという描き方をされているので、アニメでもあまり弱々しいところは見せず、感情を抑えるべきところは抑えるという描き方をしています。
――一方で、どこか子供っぽい一面もある印象です。
おっしゃる通り、無邪気で子どもっぽい部分としっかり仕事に向き合う大人の部分を備えた子なので、そのバランスも大切にしました。
――では、レオについてはどのように描いていこうと考えましたか?
あえて女性の弟子をとったレオの心情、師匠としての接し方、アルテに対する気持ちの変化を大切に描こうと思いました。また、レオはこの時代には珍しく、工房に所属するのではなく個人の画家として生計を立てています。一人で仕事をこなしているということは相当の技量を持っているということなので、どういう部分が優れているのか、それが少しずつわかっていくような描き方を大切にしました。
――レオはとても無口な印象を受けます。
シナリオを書く上でも、括弧を使った補足が多くなりがちですね。「今こういう表情をしている」、「口の端を少し上げる感じで笑う」と、細かなニュアンスが伝わるような書き方を心がけています。言葉が少ないぶん、表情一つで視聴者の受け取り方が変わってくるので、やっぱり自分を語らないキャラクターを書くのは難しいです。
――アルテやレオ以外のキャラクターを描く上で、大切にしているポイントはどんなところですか?
アルテの特殊な生き方は反発もあるのですが、同時にアルテを面白いと思う人や評価する人もいるということですね。それは原作でも大切にされている部分だなと感じました。もう一つは、当時の女性の在り方です。娼婦やお針子、貴族のお嬢様といった女性の存在がアルテの生き方を際立たせますが、彼女たちもまた職業や身分などで葛藤を抱えています。悩みを抱えながらも、誇りを持って生きている。自分の生き方を蔑んでいないというところは重要なポイントになると思います。
――最後に、放送を楽しみにしている方へ一言お願いします。
何かを目指すことの苦しさと楽しさが活き活きと描かれた作品です。それを楽しんでいただけたら幸いです。