01 監督 浜名孝行

――原作の第一印象はいかがでしたか?
大きな壁にぶつかっても決してめげないアルテに共感できましたし、グッとくるドラマもあって、とても魅力的なお話だと思いました。最初に監督のお話をいただいたときは、時期的にほかの仕事と重なっていてお引き受けするのはちょっと難しい状況だったんですが、原作を読んだらやりたいという気持ちがふつふつと湧いてきて、受けさせてもらいました。
――主人公のアルテを描く上で大切にしたいと思ったところはどんなところでしょうか?
女性が画家になるのは極めて難しい時代に、アルテはそれでも画家として生きていくんだという強い意志を持った女性です。その芯の強さ、たくましさを描くと同時に、レオに対する憧れや恋愛感情にはピュアなものを感じたので、奇をてらいすぎず、アルテの内面や気持ちに寄り添った描き方をしていきたいと思いました。
――物語を作る上でも、やはりアルテの感情や内面を重視されたのでしょうか。
そうですね。物語がアルテを中心に進んで行くので、基本的にはアルテの感情の流れを重視しています。だからといって、すべてがアルテ目線というわけではありません。いろんな登場人物の気持ちがアルテの気持ちと交錯していく作品なので、それをしっかり描き、アルテを好きになってもらえるような工夫をしていきたいと考えました。
――シリーズ構成の吉田玲子さんとはどのような話し合いがあったのでしょうか。
ほか作品でも吉田さんとご一緒して僕が吉田さんに全幅の信頼を寄せているので、こちらからあれこれ細かくお願いはしていません。大事にしたのは、吉田さんが書いてくださった脚本をどう画にするか、でした。最初に『アルテ』を読んだときに、シリーズ構成は吉田さんがぴったりなんじゃないかと思って、吉田さんを推薦したのも僕だったんです。面白そうだと言っていただけたのが、嬉しかったですね。
――原作サイドから何かリクエストはありましたか?
ストーリー部分についてはあまりなく、アルテのキャラクターデザインを最初に確認していただいたときに細かな特徴について教えていただきました。特になるほどと思ったのは、アルテの髪型ですね。髪の毛のボリューム感は前髪と横でどう違っているのか、“ハネ”の位置はどこになるのかを原作者ならではの観点で解説していただきました。
――映像を作る上で、作画面ではどのようなことに気をつけられていますか?
アルテの行動や感情が軽く見えないように、暗さとまではいきませんが、それなりの重さが感じられるような画作りを意識しています。困難にぶつかってもすんなりクリアしてしまうのではなく、汗水垂らして傷だらけになりながら困難を乗り越えていくような作画ですね。アルテが頑張る姿から、その努力が伝わるような画作りにしたいと思い、作画は時間を掛けながらかなり粘っています。カッティングでカットを足すこともありました。
――アルテを演じる小松未可子さんのお芝居はいかがですか?
何もいうことがないくらい完璧ですね。ただ、うますぎるがゆえに最初はアルテが少し大人びて見えてしまい、ともするとレオと対等に見えるところがあったので、10代半ばの若さや未熟さみたいなものは意識してほしいとお願いしました。
――レオについては、どのような印象をお持ちになりましたか?
レオはストイックでいかつい顔をした師匠というイメージがあったので、そのイメージ通りに描くようにしています。ですが、実際に画が上がってくると、レオは果たしてこういう表情をするだろうかと思うところがあって、表情を直すことが多いです。レオはあまりぱっちりした目ではないですし、かといって怖いかというとそうでもない。無表情でもなく、内面には秘めたる想いがあり、それが彼を突き動かしている。でも、それを表情として描こうとするとニュアンスが掴みづらくて、なかなか難しいんです。これは画だけでなく演じる小西(克幸)さんも難しかっただろうなと思います。決して口数の多いキャラクターではないですから。でも素晴らしい演技を見せてくれました。
――ところで、『アルテ』はクリエイターのお仕事アニメとしても見ることができると思います。監督は同じクリエイターとして共感するところはありましたか?
身近に感じる部分、共感できる部分がたくさんありました。一番印象的だったのは、アルテがある人物から「自分を安売りするな。自分は高い対価に見合った満足を与えられるという自信を持て」と言われるシーンですね。グサリときました(笑)。自分も「安売りしない」という気持ちで仕事を続けていますが、一方で好きな仕事であれば対価なんて……という気持ちもあるわけです。職人としてのプライドと好きな仕事を天秤に掛けるのはやっぱり難しい。でも、そうではないとストレートに言ってもらえると、「なるほどな、そうだよな」と納得してしまいます。
――まさにクリエイターならではの共感ですね。
『アルテ』はそういうポイントがたくさんあります。例えば、アルテが頑張って絵を描いたけれどダメ出しされて、クライアントの求める絵を意識するシーンもそうです。それを意識することによって、職人としてひとつ上のステージに上がれるという感覚はこの仕事をしているとよくわかります。
――職人はどこまで我を出すべきかという難しい悩みですね。
作品のロケハンでイタリアへ取材に行ったときに、絵を修復する職人さんを取材させてもらったんですが、その職人さんは修復はするけれどアレンジは一切しないと話していたんです。それとも通じる話ですよね。その方は絵の達者な方だと思うんですが、一切の我を出さずに絵を修復することに専念している。その志にとても共感しました。アニメも同じで、作品のカラーに合わせた画作りをするのが僕らの仕事なんです。もちろん、自分のカラーを出すのもいいと思うんです。でも、原作なり原案があるので、まずはそのカラーに合わせるのが大事なのではないか。その作業こそが自分の仕事だと考えているので、そういう意味でも『アルテ』で描かれる職人観には共感しました。
――今お話しにありましたイタリアの取材は、どちらへ行ったのでしょうか?
『アルテ』の舞台になったフィレンツェとヴェネツィアです。美術監督のSCOTT(MACDONALD)さん、美術設定の吉原(一輔)さん、Seven Arcsの畑中(悠介/制作プロデューサー)さんと、フィレンツェでは工房をまわり、ヴェネツィアでは離島に行ったり、ガラス工房を見学したりしました。日本人のガイドさんが同行してくださって、「この建物は(『アルテ』の舞台である)16世紀に建てられた」とか、「これは『アルテ』の時代より新しい」とか、細かく説明していただいて。とても参考になりました。
――フィレンツェを描く上で大切にされていることはどんなことでしょうか?
建物の色合いや雰囲気、道の広さ、細かいところだとドアの高さですね。原作をベースにしていますが、日本とは全然違うので、石畳一つ、アーチ一つにしてもできる限り舞台を作り込むようにしています。
――ヴェネツィアといえばゴンドラですが、監督も乗りましたか?
乗りました。参考になったのは、家の水路側の入口に立っていたポールですね。家紋のように家によって模様や色が違っているらしく、それをアニメにも反映しています。あとは入り組んだ水路と水の表現で、フィレンツェとは街の作りが全然違うことがわかるようにしました。
――最後に、放送を楽しみにしている方へ一言お願いします。
アルテやレオだけではなく、一癖も二癖もある魅力的なキャラクターがたくさん登場するので、いろんなキャラクターを好きになっていただきたいです。アルテは頑張り屋でいい子ですが、彼女の頑張りだけで成長していくわけではありません。まわりのサポートがあり、この時代にアルテを認めてくれる人がいるから、アルテは頑張れる。その関係性にも注目していただけたら嬉しいです。